修復家の休日
私はコーヒーが大好きで、毎日の食後に3杯は必ず飲んでいる。たまに仕事で外出したり、現地で作業をするような時にコーヒーが手に入らないと、結構辛い思いをするので、もはやカフェイン中毒とか、ちょっとした依存症となっているのかもしれない。
美味しいコーヒーを淹れる方法は様々で、私はいつもパナソニック製のコーヒーメーカー(NC-A57-Kは秀逸である)で淹れているが、たまに手間をかけてハンドドリップで淹れる。ハンドドリップはとてもふくよかな香りが立つので、入れている作業の間中、それこそ至福のときを味わうことができるのだ。
しかし、ハンドドリップでコーヒーを淹れるには道具も揃えなければならないし、さらに美味しく淹れるにはコツがあり、注ぐお湯の温度とか、コーヒーの蒸らし方、お湯の注ぎ方など徹底してやろうとすると、結構めんどうくさい作業となるので、日頃はなかなかできないし、ちょっと仕事が暇で、なお精神的にもゆったりと落ち着いている時でないとやる気も起こらない。
大切な作品をお預かりする自分の仕事を、めんどくさいなどと言ってはいけないのかもしれないが、修復家の仕事というのも実に細々とした作業が多く、事前の下調べさえ大変。ひとたび作業に入れば慎重と正確を必要とすることばかり。神経も使う。正直、私は大きな声で『この仕事が好きです』とは言えないけれど、なぜだろう。一旦仕事をはじめると、寝食の時間を忘れるとまでは言わないが、まるで時の流れが止まったような、そんな時空間の中にいるようで、いつの間にか集中して時間の過ぎるのを忘れてしまうことがある。そんな仕事の終わりにはどっと疲れてしまうのだが、なんと言えば良いのだろう、無意識のうちに、とても濃密な時間を過ごしたような、そんな満足、充実感が得られるのだ。
私は子供の頃から手先が器用で、絵を描いたり工作をするのが好きだったこともあるかもしれないが、どうやら私はめんどうくさいことが好きなようである。
今年もゴールデンウィークがやってきた。今年はどこかに出かける予定もなし、人ごみの中に出掛けるのも遠慮したいので、家でゆっくりと時間を使い、色々とめんどうくさいことをしてみようと思う。