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2024年3月 8日 (金)

絵画の一期一会

ジャズという音楽ジャンルに新しい道を切り開いたエリック・ドルフィーは、『音楽というのは演奏を始めた瞬間から大気の中に消えていってしまい、私たちは二度とそれを取り戻すことはできない』と言った。

短い曲でもいい。長い曲であるならばなお、演奏者のその時の体のコンディションや精神のあり方次第で演奏も変わるだろう。私も若かりし頃、好きなアーチストのコンサート、ライブ会場によく足を運んだが、それはレコードで聴いていたものとは全然違うし、当人のコンディション以外にも、会場の作りとか、集まった客によってもパフォーマンスは変わってくる。生演奏、ライブというのはそういうものかともう。

昨今デジタル化された音源や映像の中には、往古の貴重なの生演奏を見たり聴くことができるものもあるが、例えその演奏を記録して、再生することがいつでも可能となったとしても、当時の演奏された場所の空気、湿度や温度、はたまた匂いのようなものを残し、再現することは今もできない。その場にいて見たり聞いたりすることと、CDや携帯端末から聴く音は全く違うものだ。

初めてアンリ・ルソーの絵画作品を見たときには、描かれた人と建物や動植物背景の大きさもメチャクチャで、まるで子供の塗り絵みたいだなあと思ったものだ。しかし、この仕事をについてしばらくして、パリのオルセー美術館で『蛇使いの女』と対峙した時は、あたかもそこから放たれた妖気のような何かに絡みつかれるように、奥深いジャングルの湿った、生暖かい空気に包まれるような不思議な感覚にとらわれ、この絵画の怪しくも不思議な世界にすっかりと魅了されてしまい、しばらくその場を動くことが出来なくなった。

茶道の席ではよく『一期一会』という言葉が使われる。その時、その場所で、その瞬間だけ得ることのできる感覚や印象、そういった体験は音楽や絵画だけに留まらず、私たちの周りをよく注視すれば、いつでもそんな一瞬と遭遇できるのだろう。
私は体力、健康を維持するために、趣味方々、毎週30~40キロ程度のサイクリングをしているのだけれど、同じコースを走っていると、時間や季節によって体感する温度や湿度、空気の香りも変わって来るのがよくわかる。いつも目にする風景も注意深く見てみると、またなんとなく違って見えて、その印象、気持ちを味わうこともまた楽しい。

いつも見ている一枚の絵画も、明日はまた違って見えるかもしれない。

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