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2022年10月13日 (木)

額装の心得 その1. ーガラスは作品に密着させないー

ポスターや素描画、版画作品など、一枚の紙に印刷された資料や描かれた絵画は、額装されて鑑賞利用されることが多いかと思う。ポスターや版画の額は、太い額縁や華美な装飾のあるものは好まれない傾向があり、額縁 を細くして、額全体を薄手に仕上げることが多い。大切な作品であれば、*ブックマット装幀をして額装する方法もあるが、鑑賞性の問題から、作品の周囲にマットを取り付けることを嫌われる場合もある。いわゆる直縁【じかぶち】と額屋さんが呼ぶ、作品の周囲にマットや*ライナーを介さず、直接縁を取り付けた額である。
直縁にしたり、額全体を薄く仕立てようとすると、自ずと資料や作品を固定する方法も限られることが多く、装幀が難しくなる。一般の額メーカーや額を販売している画材店では、複雑な施工も難しいためか、稀に、額の最前面に装着したガラスに作品の画面を密着する様にして収め、その背面からは段ボール紙やスチレンボードなど、ある程度クッションになる様なものを挟んでのち、ベニヤ板などで裏蓋をして押さえ込む様なセット方法がとられるが、この額装方法が、後日重大な作品の破壊原因となる。

一枚の紙に描かれた素描、紙に印刷されたポスターも版画作品も、外界の温度、湿度の変化によって、わずかな伸縮を繰り返す。この時、すべての紙は不規則に波打ったり、引き吊れ、凹凸が生じ、凸状になった部分はよりガラスに強く押し当てられる様になる。さらに、季節によって、時間によって温度変化が大きくなる一般の家庭内では、額の内部温度の変化も防ぐことは難しいから、とくにこれから寒い時期に入って、室内の温度を急激にあげると、場合によっては壁にかけてあった額の内部に結露が生じ、これが原因となってカビが発生することもあり、また作品への被害が生じる。
作品をガラスに密着させ、ガラスに押さえつける様な額装をすると、湿度の伸縮による紙の変形を多少抑えることは可能かもしれないが、絵の具にはもともと接着成分が含まれているし、経年により劣化、変質することにより、あるいは先述の結露が引き金となり、描画したイメージの一部や紙自体が接着してしまうことがある。こんな状態になったら、症状が軽微であるうちに改装をすれば良いのだけれど、それは案外気がつかぬうちに発生、悪化し、気が付いた時には取り返しがつかない状態となっている。

額は見た目だけではなく、安全な材料を選び、より良いセット方法により、作品を保護するケースとしての役割を持たせることもできるが、そうでなければ悪い環境に作品を閉じ込める事になる。まずは、『ガラスは作品に密着させない』そう覚えておいてほしい。

Img_845902

ピカソの版画作品が密着していたガラスの内側。図像がうっすらとガラスに転移していた。

Img_872202

ガラスに貼り付いてしまった古文書。文書の真ん中あたりが分離してしまった。

 

*ブックマット装幀<https://consthink.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-5056.html>

*ライナー: 表面に麻布やベルベットなどを貼って装飾した細い縁、額縁と作品の間に装着する縁

*ガラスに注意https://consthink.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-1cb2.html>


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