150分のレンブラント
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン(Rembrandt Harmenszoon van Rijn)はおよそ1600年代に現在のオランダで活躍した巨匠。いわゆるバロック時代に『光りと影の画家』と異名を持った天才画家である。彼の代表作である『夜警』(より適切な題名は『フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊』)は、縦3メートル63センチ、横4メートル37センチという巨大な作品でもあり、1642に完成した。実はこの作品、夜を描いた作品ではなく、表面に塗布したニスが経年によって画面を暗くしていたために、いつしか『夜警』と呼ばれるようになったそうだ。この絵は題名となった市民隊(火縄銃手組合による市民自警団)が出動する瞬間を描いている。完成した当初は人の影になる者や、顔の前に手をかざされているなど、はっきりと描かれなかった団員がいて、不評を買ったようである。
コロナの影響もあったのだろう。今年は本業の絵画修復の仕事が少なくて、暇な時間が多かった。ピンチはチャンス。ではないが、私はこんな時こそ日頃できないことをやろうと心に決めていて、絵画の勉強も兼ねて、少し前から何度か挑戦していた有名絵画の模写をまたやってみようと思いついた。この作品への挑戦は、もう少し腕が上がってからと思っていたのだが、今回は思い切ってこの『夜警』に挑んでみた。
製作は支持体作りから。厚手のシナベニヤに膠で麻布を貼り、今回は試しに胡粉(これまでは白亜を使ってきた)による地塗りを10層あまり施し、平滑に研磨して平滑な下地を作った。この支持体、下地はレンブラントのものとは異なるが、とくに細かな筆致で絵を描くときには都合が良く、これまでに何度か試作をしている。下地の乾燥を待ちながら、インターネットからいくつかの画像を入手し、制作した支持体の大きさに合わせた画像プリントを作り、およそのレイアウト、アウトラインを写しとり、グリサイユ(白黒のグレースケールで描くこと。実際にはこれに褐色系の色を加えて描き始めている。)もどきの明暗をつけ、彩色を始めた。
支持体づくりは手慣れたものであるが、下書きを始めた頃からは、『まったく、えらい作品を選んでしまった』と思いつつ、描き出すうちに、いつか夢中になってしまった。
この作品は、オランダのアムステルダム国立美術館(Rijksmuseum Amsterdam )のインターネットサイトで高精細な映像を見ることができるが、見れば見るほど、まるで宝石のように美しい。このサイトでは結構拡大してみることもできるので、レンブラントの細やかな筆致とともに、場所によっては結構大胆な筆致で描いているのがまた面白い。
私は絵画や美術品の修復をしているので、日頃から細かな仕事には慣れているが、少々縮尺率を誤ったかもしれない(笑)。縮尺率はおよそ150分の1。絵筆は0号、00号、000号を使い、それこそ重箱の隅を針でつつくようにして、仕事の合間に、夕食の後に深夜まで描き続け、かれこれ2ヶ月とちょっとかかったろうか。まあ、なんとか観れる程度には出来上がったかと思う。
レンブラントとにらめっこをした日々。終わってみれば濃密な時間を過ごしたかと思う。
<https://ja.wikipedia.org/wiki/レンブラント・ファン・レイン>
<https://www.rijksmuseum.nl/nl>アムステルダム国立美術館