裏打ち紙を取り除く
伝統的な技法で製作される東洋の書画は、薄い絹織物や紙に描かれるため、そのままでは保持することも展示利用することも難しいので、作品が描かれた用紙や画布の裏面に接着剤を塗布した和紙を何層か貼り付けて補強し、これを額や掛軸に装幀して利用する。
書画を掛軸に装幀する場合は、巻いて収納し、展開して、きれいに平らに床の間に掛かるように、裏打ち時にはでんぷん糊を水で薄めて調整し、あるいは煮溶かした糊を長く寝かせて接着力をわざわざ減衰させて使い、裏打ちした紙が剥がれることなく、なお硬ばらぬように工夫を凝らしている。このような工夫の結果、将来なんらかの理由で改装したり、あるいは問題が生じて、作品を修復しなければならない際には、裏打ちした紙を湿らせることで、古い裏打ち紙を安全に取り除くことができるようになっている。
一方、最近取り扱う頻度が高くなってきた額装された絵画作品は、ベニヤ板など合成材を使った額材に強度の高い接着剤で固定され、画用紙や画布の裏面に貼り付けられた裏打ち紙についても、合成接着剤を用いていて、容易に除去できないケースが多い。
かつても将来の改装や修理の可能性など考えて表装作業をしたとは思えないが、近年は安価で簡便に使用できる接着剤も多く販売されていて、もちろん使い方次第では良好な結果を得られるものも多いのだけれど、便利=安全ということばかりでもなく、重要な作品の装幀に際しては、作業効率や経済効果ばかり優先せずに、 実績のある伝統工法も参照しながら、より安全で、確かな施工を行って欲しいと思う。
◉裏打ち紙が変色していたため、除去をする。
従来工法によるものならば加湿することで容易に除去できるが、最近取り扱うものの中には、裏打ち紙の除去に苦労するものが多くなった。
« 次の仕事 | トップページ | 私の正しいアプローチ »
「保存修復」カテゴリの記事
- 絵画の擬人化 (2023.05.14)
- 保存修復の秘密(2023.04.30)
- 私たちはなぜ修復をするのか(2023.03.10)
- あらためてパティナという古色を考えてみる(2022.11.10)
- 額装の心得 その1. ーガラスは作品に密着させないー(2022.10.13)
« 次の仕事 | トップページ | 私の正しいアプローチ »
コメント