裏側を観察してみよう
床の間に長い間掛軸を飾って(あるいは放置して)おくと、掛軸の裏面が黴に汚染されて、症状が進行すると褐色の斑点、シミ(狐の毛の色や斑点に似ているのでフォクシングと呼ばれている)が現れることがある。
伝統的な建築法でつくられた床の間の壁面、土壁【つちかべ】は耐湿しやすく、表面に細かい凹凸があるので埃も付着しやすい(黴の餌となる)。さらに床の間自体が奥まった形でつくられているため、空気も湿気も滞留してしまい、容易に黴の温床となる。とくに一枚のシート状になった掛軸は、床の間に展示すると裏面が壁に近接し、掛軸に塞がれた形となる場所はなおさら空気も湿気も滞留をするから、黴も繁殖しやすい。とくに梅雨の時期や冬の時期(湿った冷気が溜まる)は注意が必要だ。
掛軸が黴に汚染されてしばらくすると、黴が生成する酸(フマル酸、リンゴ酸、酒石酸など)によって紙の中のセルロースが分解されて変色する。良くないのは、長く床の間に掛軸を掛けておいて、帯湿したまま巻いて箱の中にしまってしまうこと。もし、黴に汚染されたまま放置しておくと、作品も箱の中も黴が繁殖して重篤な被害となることがある。
湿気の多い時期は掛軸などを長期間展示せずに、時折、床の間には何も置かずに風通しを良くし、エアコンなども利用して室内の湿度を調整するのも良いと思う。そして、床の間に長く掛けてある掛軸は、たまに裏側を観察してみよう。
黴に汚染されてしばらくすると、はしかのように斑点状のシミが現れる。
全体に青い写真は紫外線(ブラックライト)を照射して写真撮影したもの。肉眼では確認出来ない場所にも広く汚染が認められる。
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