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古い書画は幾度となく改装や修理が施されてることが多い。東洋絵画の多くは西洋絵画とは異なり、何層かの裏打ちが施され、掛軸や屏風などに作品本体となる画用紙が糊付けされていて、簡単には作品本体(=絵の具が塗布された画用紙や画布)を分離出来ない。改装時にはこの糊付けされた装幀材料を取り除き、古い裏打紙を湿らせて取り除く必要がある。
解装(解体)時、とくに慎重におこなわなければならないのが、肌上げ【はだあげ】と呼ばれる作業で、作品直下、背面に接着された裏打紙の除去。通常、水溶性の正麩糊【しょうふのり】で接着された裏打紙は、湿らせることで接着剤が溶解し、除去することが出来るが、合成接着剤を使っていたり、濃度の高い接着剤が使用されている様な場合には除去が難しくなる。ましてや作品の画用紙が経年によって脆弱化している様な場合には、紙の繊維が痛んでおり、不用意に肌上げをおこなうと裏打紙ごと画用紙繊維を持ち上げてしまい、繊維のとられた部分は薄くなってしまうことになる。痛んだまま装幀された作品の解体はとくに注意が必要で、さらに損傷を広げてしまわないように、肌揚げ時には裏打紙と作品画用紙の質や色の違いを確認し、ゆっくりと慎重に、確実に作業をおこなう必要がある。
床の間に長い間掛軸を飾って(あるいは放置して)おくと、掛軸の裏面が黴に汚染されて、症状が進行すると褐色の斑点、シミ(狐の毛の色や斑点に似ているのでフォクシングと呼ばれている)が現れることがある。
伝統的な建築法でつくられた床の間の壁面、土壁【つちかべ】は耐湿しやすく、表面に細かい凹凸があるので埃も付着しやすい(黴の餌となる)。さらに床の間自体が奥まった形でつくられているため、空気も湿気も滞留してしまい、容易に黴の温床となる。とくに一枚のシート状になった掛軸は、床の間に展示すると裏面が壁に近接し、掛軸に塞がれた形となる場所はなおさら空気も湿気も滞留をするから、黴も繁殖しやすい。とくに梅雨の時期や冬の時期(湿った冷気が溜まる)は注意が必要だ。
掛軸が黴に汚染されてしばらくすると、黴が生成する酸(フマル酸、リンゴ酸、酒石酸など)によって紙の中のセルロースが分解されて変色する。良くないのは、長く床の間に掛軸を掛けておいて、帯湿したまま巻いて箱の中にしまってしまうこと。もし、黴に汚染されたまま放置しておくと、作品も箱の中も黴が繁殖して重篤な被害となることがある。
湿気の多い時期は掛軸などを長期間展示せずに、時折、床の間には何も置かずに風通しを良くし、エアコンなども利用して室内の湿度を調整するのも良いと思う。そして、床の間に長く掛けてある掛軸は、たまに裏側を観察してみよう。
黴に汚染されてしばらくすると、はしかのように斑点状のシミが現れる。
全体に青い写真は紫外線(ブラックライト)を照射して写真撮影したもの。肉眼では確認出来ない場所にも広く汚染が認められる。
私が最初に手にしたカメラは父のもっていたCanon製のカメラで、高校生の頃には白黒写真に熱中し、撮影はもとより、フィルム現像から印画紙へのプリントまで一通りおぼえた。あれから結構な歳月が過ぎて、今ではおよそほとんどのカメラがデジタル式になり、かつては専門店に限らず、あちこちの店先で販売していたフィルムも滅多に見なくなった。最近はスマートフォンの普及と性能の向上によって、カメラの需要も激減しているように思う。カメラのデジタル化によって、『写真』の取扱いや利用方法も変わり、かつてはプリント(印画紙に画像を焼き付ける)してはじめて写真となり、鑑賞利用されたものが、いまや印画紙にプリントされることもほとんどなく、スマートフォンやコンピューターのメモリーの中に、あるいはインターネットのサーバーに画像データーとして蓄積され(あるいは放置されて)、液晶モニターを介して鑑賞することが主流になっているのではないだろうか。
昨今、『写真』は『画像』という風に、呼び方まで変わって来ている。フィルムの現像、印画紙へのプリントという一連の処理から開放された写真は、電子機器の普及と発達にともなって、より多くの人に利用され、日々大量のデジタル写真画像が製産されるようになった。もはや多くの人がフィルムカメラを利用することも望めない時代となったのであろうこの頃、カメラメーカーCanonがフィルムカメラの生産終了を発表した。また一つ、ある歴史が終焉を迎えたようだ。
プロ用フィルムカメラの最終型EOS-1v。なんと製造は8年前に打ち切られ、Canonはずっと在庫を販売していたそうだ。昨今、私も使う機会が無くなってしまった。