フォト
無料ブログはココログ

« 岡本太郎記念館 | トップページ | 修復に望まれるもの »

2018年3月14日 (水)

修復報告書をつくる理由

私の工房では、公共、民間、個人を問わず、修復処置が終わると必ず報告書を作成し、作品の返却時に顧客に手渡している。報告書を作成する理由は、貴重な作品や資料を預かり、直接的な修復処置をおこなう修復家の責任として、施術、施工の記録をし、修復前後の変化を記録するため、さらに修復処置によって得た情報を詳しく伝えることで、修復後の取り扱いに役立てていただきたいと考えている。私たちが取り扱う作品や資料は、数百年の歳月を得ているものも珍しくはなく、もともとデリケートなものが多いし、問題点があれば、全て理解していた方が安心、安全。人の怪我や病気も、自らがその症状をよく理解して養生に努めれば、より治療の効果も上がるように、修復した物もまた、その後の保存や管理が大切になるから、私たちの作る修復報告書が、今後の有効な活用と延命の一役となってくれれば嬉しい。

私は2000年ごろからインターネット(祐松堂HP  http://yushodo.art.coocan.jp  )を通じ、美術品や歴史資料の修復にまつわる様々な情報を配信してきた。先述の報告書についても、所有者の皆さんにお願いして、いくつかの例を掲載している。その後、私たち修復家の世界も雑誌やTVなどで紹介され、昨今は関連するインターネットサイトも増えては来たが、やはり今もって修復家という職業はマイナーな世界であることに変わりはなく、もともとこの世界に関心を持っている人も少ない。

報告書の提出先が公共の美術館や博物館、資料館など、専任の学芸員や司書が在籍している場合は、自分たちの管理している作品や資料を熟知しているし、関心も高いので、比較的解説も楽になる(そう感じている)けれど、それでも修復の施術や方法論については、まだまだ明るい者は多くはないし、専門的な知識のない一般の人々が相手となれば、その内容を丁寧に、きちんと理解してもらえるように説明することは、また大切なことであり、結構大変な仕事でもある。

少し前に、ある地域の資料館の依頼で収蔵品の修復処置をおこなった際に、報告書の管理をどうしたものかと問われ、相談の上、当時の担当官の計らいもあって、近隣にある図書館で管理をお願いすることになった。本来、公共の費用で賄う修復業務については、その内容を誰もが知る権利があるだろうし、確認できる必要もあるだろう。

絵画や資料の修復処置には、今でも一般には知られていない方法や技術を使い、さらに専用の道具もあるし、使う材料、その名称についても一般に流通していない特殊な物がたくさんある。私は必要に応じて注釈を付けたり、解説のページを設けてもいるが、あまり情報量が多くなっても読むことが大変になってしまうだろうし、そうかといって、伝えるべき情報を減らしたり、重要な説明を省くことも出来ない。専門的な知識や情報を持たない人々への説明は、わかりやすい言葉で、丁寧に、そして手短かにすることなど工夫が必要と思ってはいるのだけれど、実際にはなかなか思うようにはいかず、預かった作品や資料の返却期限が迫ってくると、ついついいつもの様に事務的に書き上げて提出してしまう、、、。

 

Img_4932report

◎報告書には色々な情報を記すが、私の工房では 1.修復した作品、資料のおよその成り立ちや特徴 2.処置前の状況、劣化や損傷の状態 3.修復処置の概要 の3つを記録するのが基本となり、さらに修復前後の写真記録、必要に応じて取り除いた古い材料のサンプル、修復時に加えた材料のサンプルなど添付する。

報告書は全てパーソナルコンピューターを使って作成し、写真画像はデジタルカメラを利用。報告書は2組作り、1組を工房内で保管している。安全を考慮して文章については印刷物とデジタル化したデーターの双方ともに保管。写真画像を含むデジタルデーターは、パーソナルコンピューターによる保管と、コンパクトディスクに記録したものをあわせて保管している。

 

 

« 岡本太郎記念館 | トップページ | 修復に望まれるもの »

保存修復」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 修復報告書をつくる理由:

« 岡本太郎記念館 | トップページ | 修復に望まれるもの »