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2018年1月30日 (火)

シミは抜けるけれど

絵画作品のシミというと、写真のように斑点状に褐色化している例が圧倒的に多い。この原因のほとんどは黴などの微生物被害で、額の中で結露が発生し、その水分によって黴が繁殖をはじめたり、長く床の間に掛けておいた掛軸が、帯湿した壁面の水分やそれによって生じた黴に汚染されたり、シミが発生した作品を詳しく観察してゆくとその原因も見えてくる。

 

ちょっと話は変わって私の子供のころ、お正月が過ぎると母が鏡餅を細かくして揚げ餅などにしてくれたが、硬くなった餅を細かくするのと、黴びた部分を削ぎ落とすのに結構苦労した(よく手伝わされた)。上手く黴を取ったと思っても、揚げた餅を食べると結構黴臭いやつもあって、食べるのが嫌になった思い出がある。黴による汚染は見た目以上に厄介で、専門家に言わせると、ちょっとでも黴びたお餅は、結構内側まで菌糸が浸食していることもあり、あまり食べない方が良いらしい。

 

シミ(カビ)が発生した作品に紫外線を照射すると、肉眼では確認出来ない部分にも異常が見られることがある。作品自体(画用紙、画布)のみならず、作品と接触、隣接する額材や装幀材料にも被害が広がっていることもあり(額材料や装幀材料自体が汚染源となるものもある)、そのまま放置しておいた場合、さらに被害が大きくなる可能性もあるので、出来るだけ早期の発見に努め、黴被害を認めた場合には、できるだけ早いうちに手当てをすることが大切である。

シミ、変色自体は化学的な処置によって改善することは出来る(これも早期症状、早期に手当てするほど綺麗になる)が、伝統的な木版画、多色刷りの浮世絵などは、わずかに水分を与えただけで絵具が溶け出す可能性があり、シルクスクリーン技法の版画は、水分を与えると画用紙が膨張することによって、表面に厚く塗られた絵の具に(紙とともに膨張しないので)亀裂が生じる可能性が高いため、多くの場合処置が出来ないケースがほとんど。シミや変色自体は何とかなっても、作品の性質により処置が出来ないものもあるから、ぜひ注意をしてほしい。シミは抜けるのだけれど、シミ抜きはけっこう厄介なのである。絵画にはしかのような斑点状の変色を見つけたら、できるだけ早く専門家に相談してほしい。

 

Oroti01 画像01修復前の状態

 

Oroti02 画像02 修復前の状態、紫外線(ブラックライト)照射

 

Oroti03 画像03 修復後の状態

 

 

 

 

 

 

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