版画の損傷例
版画にはいろいろな技法や種類があるが、伝統的な日本の浮世絵版画は、水で溶いた顔料や染料を彫刻した版木(板)に刷り込み(彫刻によりできた凹凸の凸の部分に絵具が付着する)、これを紙に馬楝(馬連【バレン 】)という道具を使ってを使って擦り、押し当て、印刷をする。他の版画技法から比べると、色が鮮やかで、よく観察すると版木が押し当てられた部分に紙の上に凹凸が見られたり、広い彩色部に特徴的な板目模様が見られたり、背面には馬楝で擦った軌跡を見て取ることもできる。
一方、この版画は、エッチングやリトグラフに代表される西洋の技法によるものから比べると、絵具の定着が極めて脆弱で、水分を与えることで容易に移動し、滲む。
絵具の中には、雲母や銀泥など退色や変色しやすい材料があり、紙に含浸した絵具が、印刷した用紙ごと変質させてしまう様な症例を見ることもある。
◎これまでの利用による汚れの付着、接触による表面の絵具の移動に加えて、
絵具の塗られた箇所が硬化して亀裂が生じ、料紙の一部が抜け落ちてしまった例。
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