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2015年10月

2015年10月26日 (月)

掛軸にされた絵画作品の修復 ー裂地を再利用するー

掛軸にされた絵画作品を修復する際には、装幀部と絵画本体部分を分離する必要がある。たいていの場合、表装部分は新しい裂地で表装することが望まれてきたが、希少価値が高いものであったり、良い裂地が使われている場合、作品の制作者がその裂地を選んだ場合などは、古い表装裂地も再利用して表装する。

掛軸は『裏打ち』といって、糊付けをした薄い和紙を何層か背面に貼り合わせてあり、再利用するためにはこの和紙を全て取り除き、掛軸の裂地をパーツごとに分解、洗浄し、あらためて裏打ちをしてまたもとの形に戻すといった作業が必要。

古いものを使い、使い続けるというのは徳の高いことと思うが、なかなか難儀なことでもある。

Img_oldtextile

○掛軸になっていた裂地をを分解した状態

テープの痕を取り除く

現在では、後日変色したり変質の危険があるため、およそ専門家の間では、どんな接着テープでも直接的な使用はしないと思われるが、セロハンテープや両面テープに代表される接着テープは、その利便性から、ポスターをはじめ、版画やスケッチなどを額装幀する際や破損の修理などにも多く用いられてきた。

これらのテープにはいろいろな種類のものがあるが、その多くはもともと何十年もの長期的な使用を考えて作られてはおらず、経年とおかれている環境によって、思いのほか早期に接着剤が劣化、変質、変色する。そして、いったん変色してしまうと、痕を取り除くためにはいろいろな制約、問題もあって、けっこう面倒なことになる。

テープ痕を取り除く方法はいくつかあるが、今回紹介するのは、大理石の粉末を用いて湿布をする方法。大理石の粉に溶剤を混ぜて処置部に塗布し、ガラス板と重りを置いてしばらくすると接着剤は溶け出し、溶けた接着剤は大理石がうまく吸収してくれる。

ただし、この方法も、処置部の周辺に溶剤に溶解する絵の具やインク、染料などあれば、一切処置をすることはできないし、溶剤は紙にしみ込みやすいため、溶け出した接着剤が広がらぬ様に乾いた粉を回りに盛るなどの工夫も必要。

 

やはり大切な作品には直接的な使用は避けたい。


Img_tapescar01

 

Img_tapescar02

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Img_tapescar04

◎参考

2005年5月14~15日 文化財保存修復学会第27回大会

『紙に浸透した粘着テープ接着剤の除去方法』 発表者:斎藤敦

2015年10月20日 (火)

波打ち変形と亀裂

紙に描かれることの多い絵画作品は、額装幀する際、長く平滑な状態を保てる様に少し緊張させる様にして固定することがあるが、何らかの原因でこの緊張が解けてしまうと、用紙が波打ったり、絵の具層に亀裂が入ったりする。絵画作品はどんなものであれ、良好な鑑賞性を得られる様にするためにも平滑な状態であることが望ましい。

用紙の波打ち変形や絵画層の亀裂は、画面と同じくらいのレベルより斜め下か上から光を当てることによってよく観察することができる。

Namiuti5043

◎作品の固定不調によって用紙が部分的に遊離し、不規則な波打ちが生じた例。

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◎作品の固定不良に加えて、絵の具層の収縮により亀裂が生じた例。本作品は過去に掛軸装幀されていた様子であるが、あまり絵の具層の厚い作品を巻いて保管することは避けたい。

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