肌上げ -古い裏打ち紙の除去作業-
薄い和紙や絹織物に伝統的な技法で描かれる東洋の書画は、このままでは不安定で保管も利用も出来ないので、背面に糊付けした和紙を何層か張り合わせ(この作業を『裏打』【うらうち】という)、これを掛け軸や巻物にしたり、屏風や額に装幀するが、修理が必要となった際にはこの裏打ち紙を取り除く。作品の裏に最初に裏打ちする紙を肌裏打ち紙と呼び、これを除去する作業を肌上げと呼ぶ。
私たちが修復する作品の多くは、遥かな年月を経て脆弱なものも多く、作品直下よりおこなうこの作業は長い時間と大きな緊張を強いられることも少なくない。
写真は『押し隈【おしぐま】』といって歌舞伎役者の化粧を薄い絹織物に写し取ったもの。もともと化粧には絵の具の様な定着剤(接着剤)が配合されていないので、定着力が弱い上、支持体となっている絹織物(絖【ぬめ】などと呼ばれる細い絹糸で織られたものが多い)はとても薄く、不用意に裏打ちを剥がすと写した化粧も絹織物の糸目も簡単に歪んでしまう。
裏打ち紙を剥がす為には背面より水分を与えることで接着剤を緩ませるが、必要に応じて作品画面側より事前に表打【おもてうち】(表側に仮接着用接着剤を塗布した紙を糊付けする)して養生、固定し、小さな範囲で、必要最小限の水分を与えながら裏打ち紙の除去作業を進める。裏打ち紙は剥がすのではなく、産毛もつまめる様な精密なピンセットを使い、紙繊維を少しずつつまみ上げる様にして取り除いてゆく。
« 熱して剥がす | トップページ | シミをのぞいてみる »
「保存修復」カテゴリの記事
- 絵画の擬人化 (2023.05.14)
- 保存修復の秘密(2023.04.30)
- 私たちはなぜ修復をするのか(2023.03.10)
- あらためてパティナという古色を考えてみる(2022.11.10)
- 額装の心得 その1. ーガラスは作品に密着させないー(2022.10.13)
コメント