絹本に揮毫された作品の修復
伝統的な技法による東洋の書画は、薄い紙や絹織物に描かれ、さらに掛け軸や巻物などに表装(表具、装幀)されて利用することも多い。紙も絹織物も長い時間を経るとしなやかさがなくなり、次第に硬くなって行く。こんな状態になったまま長い間巻いて保管をしていると、巻いた状態でかたく固まってしまう。開こうとするとゼンマイのように元に戻ってしまう様なこともあり、このようになった状態を『巻き癖』【まきくせ】と呼ぶ。
巻き癖は劣化状態や表装、裏打ちに使用した紙や接着剤によっても発症時期や症状は異なるが、発症した状態で不用意に作品を扱うと折れが生じ、折れた箇所はやがて亀裂から裂傷へと移行し、さらにそのまま放置すれば、写真のように細かい破片となって剥離、消失して行く。
全長3メートルほどの絹織物に揮毫された作品。劣化による亀裂や部分的な消失が多く認められた。以前に部分的な修理をされた様子であるが、よほど手こずったのであろうか、皺や折れ重なりが生じたまま裏打ちされ、分離した織物の破片も表裏、縦横を返したり、誤った位置におさめてある箇所も多かった。
修理は古い裏打ちをすべて取り除き、絹織物が消失した部分には修復用に調整した(長期間太陽光にあてて強制劣化させたもの)絹織物を損傷部分の形状に合わせて裁断してはめ込み、裏打ちして固定する。