屏風とシワの関係
古い屏風や襖の四隅には、ちょうど対角線方向にシワが発生していることがある。私達は角皺【すみじわ】(地域によっては『しかみ』と呼ぶ。『しかめっ面』からきているのだろう)このシワの発生原因は、経年による内部の構造材の収縮である事が多い。
伝統的な工法によって制作された屏風は、杉の角材で組んだ格子(下骨【したぼね】などと呼ぶ。障子の骨組みの様な物を想像していただければ良いと思う)に表裏より和紙を貼り重ね、一枚のパネルをつくってこの上に表装裂地や書画を固定してある。制作当初はみなピンとシワひとつ無く緊張していたであろう屏風の表面も、長い歳月のうちに、内部の木材格子が自ら抱えていた水分を排出し、痩せてゆくことで表面がだぶつき、とくに太い木材が使われる四辺(さらに四隅は縦横の角材が合わさっているのでたてよこ双方から収縮する)に皺が発生しやすい。屏風は下骨の上に何層にも紙を重ねてあるので、この下層の紙にもシワが生じる。皺があまり大きくなると景観の問題だけでは済まなくなり、収納の折りに接触したり擦れたり、あるいは押しつぶされる様なこともあるので修復が必要になる。
雨の日になると、ピンと張っていた障子や襖の紙にだぶつきや皺が寄るのが観られる様に、経年を得ずしても、湿度に大きな変化が生じた場合は同様の症状が発生しやすくなる。あまり大きな温湿度の変化を繰り返し与えると、内部の木材が大きく変形たり、組み合わせ部分が剥離して外れたり(簡単に脱臼した様な感じ)、皺が元に戻らなくなってしまうなど、大きな被害を与える原因にもなるから、作品を展示、利用している間は(できれば管理、保管場所も)、急激な変化をできるだけ与えない様に、エアコンをこまめに調節するなどして注意をしよう。
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