カビ害に備える
東京も梅雨の時期に入ったようだ。この時期気になるのがやはり黴害。大切な絵画や美術品を深刻な状態に至らせないためには、何より日頃の観察と展示保管場所の環境をできるだけ整える事が肝心だが、カビの生えやすい環境や生えやすい場所を知っておくのも、きっと良い対策になるだろう。カビはおよそ湿度60%を超えると繁殖しやすくなると言われている。額に入った絵画作品ならば、額の内部と外側の温度差によってガラスの内側に結露が生じることが多い。もし、その痕が灰色~暗黒色に変色していれば、額の内部や作品上にもカビが繁殖している可能性がある。同じ額(額装された作品)を長期にわたって展示しておいた場合、額裏と壁面との狭い空間にはずっと同じ空気が停滞している。けっこうな埃(カビの餌になる)がたまっている場合も多いから、ここで湿度が上昇し、さらに帯湿する期間が長くなれば、カビが繁殖する可能性は高い。日本間の漆喰壁、床の間の土壁などは、もともと帯湿しやすいので、特に湿度の高い折は、額や掛け軸のかけっぱなしはしないようにしたい。長く同じ場所に掛けてある額や掛軸は、たまには取り外して、作品の裏面や壁の清掃をしておくのも防カビ効果につながる。
湿度の高い時期は、展示する前にエアコンなどを使ってあらかじめ展示する部屋全体の湿度を下げておくと良いだろう。湿度の管理は、一般にはエアコンを使うのが最も簡便で効果的でもあるが、大切なのは、一日の温度差、湿度差ができるだけ急変しない様なこまめな調節。湿度に敏感な材料はちょっとした湿度の変化で急激に伸び縮みし、掛軸の様に薄い物ならば波打ちや引き攣れの様な変形が生じるし、質量のある木材彫刻などは、乾燥が過ぎると亀裂など生じる危険がある。急激な温度の変化は、私達人間の身体にも不快を感じさせ、変調を来すことがあるが、デリケートな美術作品にとっても大きなストレスを与えることになる。
肝心なことがもう一つ。エアコンの内部はいつも湿っているので、実はとてもカビが生えやすい。カビたままエアコンを運転すれば、カビをまき散らしているようなものだ。こちらもこまめな点検と整備を。
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