カビにご用心
カビは微生物の一種で、正式には真菌【しんきん】と呼ばれている。私たちがカビと呼ぶのは、この菌が何かに付着して出芽した胞子の集団。一般の住宅の中では、1平方メートルあたり数千個の真菌がいつも浮遊しており、10℃から35度程度の温度の環境で生き続けることが出来、湿度が60%を超える頃になると繁殖しやすいと言われる。私たちの日常環境は、常にカビが生える状態にあると考えてよいだろう。カビが生育するためには、他の動植物同様に栄養が必要だが、カビは人工、天然を問わず、チリや埃、樹脂製の風呂桶、窓ガラスなど、何でも栄養にしてしまうから、実際にカビを生やさないようにすることは難しい。
湿気の多い梅雨ではなくても、暖房、エアコンなどによる急激な部温度変化は、時にたくさんの結露を作り、注意を怠ると着床したカビが急速に増える。カビは発芽して胞子を持てば、またたくうちに転移、増殖して、そこにある栄養源を枯渇するまで吸収し、代わりに酸(有機酸=フマル酸、リンゴ酸など)を生成しながら、着床した物を侵し、破壊の限りを尽くし、着床した物を深刻な症状へと至らしめる。カビは発生当初ならばティッシュペーパーで拭き取ることも出来る(一見、そのように見える)が、不用意に払拭すれば、菌を撫で広げるだけになって、かえって症状を進行させてしまわないとも限らない。一般に殺菌にはアルコールを使うのが有効ではあるが、あまり濃度が高いとカビを死滅させるに十分な効果を与える前に蒸発(エタノールの場合は70%程度の水溶液が科学的に殺菌効果があるとされている)してしまうし、素人判断で安易に利用すると、塗布した物を変質させてしまう可能性もある。敏感な体質の人は、肌が荒れたりする可能性もあるから、さらに注意が必要。アルコールもいろいろな物を溶かす強い溶剤であることに変わりはないから、安易な利用は控えてほしい。
絵画作品にカビが発生してしばらくすると、まるで麻疹のような斑点状の変色を生じたり、絵の具や画布、画用紙をまるで別物に変質させてしまう。これも早期、初期的症状で発見されれば十分な回復も望めるが、症状が進行すれば、外科医よろしく、変性部分をメスやピンセットで取り除いたり、薬品を用いた化学的処置が必要になり、図らずも処置対象を痛めることになったり、最悪の場合は処置が出来なくなる。絵画や美術品にとってのカビは、ガンのように手強いので、早期発見が重要。大切な作品や資料をお持ちの方は、どうぞ定期的な観察を怠らない様に。もうすぐ梅雨の季節。どうぞご用心を。
◎壁の材質や額の構造、材料にもよるが、長く壁に掛けてある作品は、背面に湿気が溜まり、カビが生えやすい状態になっている事が多い。カビが生えるとカビを餌にするダニも集まって来て被害は急速に拡大、深刻化することもある。
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こんにちは。
祖父の描いた水彩画に、カビが発生しております。先日亡くなった祖母の部屋に飾られたものであり、修復を考えております。絵画的価値は無いと思いますが、是非治して飾りたいと思います。
よろしければ、修復のご依頼をしたいのですがよろしいでしょうか。
投稿: 佛坂 | 2016年6月 1日 (水) 16時53分
処置が可能であれば修復承りますが、あらかじめ、作品の状態、症状を確認する必要がございます。個人情報含むことにもなるかと思いますので、別途メールにて詳細お伝えいたしますのでよろしくお願いいたします。
投稿: 祐松堂 | 2016年6月 1日 (水) 17時59分