かたちのない本
小説や雑誌、論文、国や地方自治体で作られる公文書、毎日印刷される新聞は、スポーツ紙や地方紙まで加えると、その数は膨大になる。もし、これらを書かれた物をそのまま、印刷物を丸ごと、数十年、いや、数百年にわたって保管するとしたら、どれだけ大きな書庫があっても間に合いはしないだろう。こうした事情を考慮してか、文字記録、印刷物の保管には、そこにある情報にアクセスできれば良いとして、他の記録媒体に情報を移し替え、かさばる物自体は捨ててしまうといった考え方がけっこう古くからある。アメリカでは1930年代、情報の縮小化による保管の有効性と利便性に注目して、図書館におけるマイクロフィルムの導入がはじまっている。そして、昨今では爆発的な技術開発のもと、世界中で文字情報をデジタル化する動きが加速していて、インターネットにアクセスできるコンピューターと語学力さえあれば、自宅でビールでも飲んでくつろぎながら、遠くはなれた国の図書館にある本を読むことも可能になってきた。
先日、アップル社製のiPadが日本でも発売された。この端末は、iPodをはじめとする携帯音楽プレイヤーがインターネットサーバー上にある音楽をダウンロードして、いつでもどこでも音楽を楽しめるように、ダウンロードした書籍の情報を、液晶モニターに映し出して読むことが出来る。指先でモニターに触れ、本物の本のページをめくるようにすると次のページに画面がが切り替わるイメージは秀逸で、いかにもアップル社の製品らしい遊び心を感じる。
文字、図像、音声、映像、音楽、、、。いまやあらゆる物がどんどん電子信号として置き換えられている。コンピューター、デジタルテクノロジーの発展は、様々な分野で大きな進化と利便性をもたらす一方で、今まで目に見えていた、手に触れる事のできた物の価値を、その姿や形の価値を確かに変化させている様に思う。
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