『修復家の集い』
10年ほど前のある夜、今もずっと親しくお付き合いさせていただいている京都、和蘭画房の志村正治さんのお宅に集まり、一台のApple社製コンピューターを囲んで、インターネットの未来について、みんなで喧々諤々話し合った。当時、既に私はコンピューターを多少はいじってはいたが、インタネーットについての知識はもちろんのこと、ましてやホームページ、インターネットサイトの作り方など、全く知らない初心者だった。このときのメンバーの中には、コンピューターを所有しない者も少なくはなくて、これから体験する未知の世界への不安や期待に、きっと皆が心動かされていただろう。
後に大切な友人となり、多くを教えてくれた修復家の尾立和則さんがはじめた、情報の公開と伝達、修復家同士の交流の場をつくるというコンセプト、志を支持して、インターネット版『修復家の集い』をはじめたのは、確か1999年の初頭。和蘭画房を中心に、数人のメンバーそれぞれに契約するサーバー上にページを分担してつくり、リンクを張って一つのサイトを完成させた。あのときの感動は今も忘れない。
開設当初はトラブルもけこうあって、遠方に住むメンバー同士で毎晩の様にメールをやり取りし、メールで足りないときは電話で話したり(実際に声を聞いて、電話で話すと解決しやすいこともあるものだ)、会う機会があればできるだけ顔を合わせ、いろいろと相談し合った。その後、運営メンバーも入れ替わり、独自のドメインを取得したり、寄付金による運営をはじめたりと紆余曲折しながら、気がつけば『修復家の集い』とのつきあいもずいぶんと長くなってしまった。開設当時、国内にはおよそ文化財の修復をテーマにするサイトは皆無と言っても良い状況の中で、『修復家の集い』の活動は、とても画期的であったと思う(きっと、創設メンバーのみんながそう思っているだろう)。
あれから、国内にも文化財の保存や修復をテーマにしたサイトはずいぶんと増えて、貴重で有益な情報を配信するページも多くなった。いつか『修復家の集い』への参加者も遠のくように減り、私たちの活動の役目も終焉に近づいたことを感じさせていた今年の春先、創設者である尾立和則の意向によって、サーバー上から『修復家の集い』は消去された。
『修復家の集い』は、私自身も参加者の一人として、多くの方との交流を得てきた。ここではまた多くを知り、学ぶことが出来た。管理者の一人としては、この活動に参加できたことに、ささやかながら運営にも協力できたことを誇りに思うとともに、創設当時のメンバーと参加者の皆さんに感謝をしたい。
*『修復家の集い』
修復家の尾立和則が文化財の保護や修復、保存に関する情報を様々なメディアから厚め、編集、コピーをして、A4版の冊子として関係者に配布したのが始まり。1998年より文化財保存修復学会の研究発表会で知り合った仲間同士で集めた情報をインターネット上で公開。同時に修復家や関係者の情報交換を可能にした。
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コメント
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今日22日の朝、中塚氏のHPで「修復家の集い」を
読みました。当時の事を想い出しました・・・ありがとうございます。
メンバーが熱くなって進めた事は有意義な事でした!
私も何故か10年目に新しい試みをしている様で今また新しい試みを創めました。人の出会いモノの出会い?
ではまた・・・
投稿: 志村正治 | 2010年5月22日 (土) 12時13分