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2010年4月

2010年4月20日 (火)

修復家はコックさん?

食堂は英語で restaurant この語源は、ラテン語のestaurāre(回復する)と -ant(現在分詞語尾)組み合わせた言葉だそうで、人々の食欲を満たし、疲れた体を回復させ、元気を回復させる食べ物、その食べ物を提供する場所をさす。現代の様に科学的知識もなく、優れた医薬品のなかった遥か昔から、自然の植物から採取した漢方を使った食事から健康を回復し、維持する知識と技術は、世界のあちこちで広く伝えられており、かつての料理人は、今以上に私達の健康に深く、強く関わっていた事が伺われる。
『回復』はrestoration、『修復』と意味を同じにする。私たち修復家は、朽ち行く先人の創造物の延命に努め、痛んだ物を修理し、今を生きる人々が見いだした価値の維持や回復に日々尽力している。残された物は、いつかまた未来の人々に喜びや感動を与えるものとして、たくさんの情報を伝えて未来を創造する礎として、きっと何かの、そして大きな役に立つに違いない。料理人がつくり出す食事が、ただ人々のお腹を満たすだけでなく、私達に健康と幸福をもたらし、明日への活力を与えてくれるように。私たち修復家も、ほんのささやかではあるが、人々の幸せと未来に貢献ができるのだと思う。

2010年4月12日 (月)

弘法は筆を選ばねばならない ! ?

アメリカのメジャーリーグが開幕した。私は名のるほどの野球が好きではないが、毎年日本人選手の活躍を楽しみにしている。シアトル・マリナーズのイチロー選手は、いつも決まったメーカーの同じ道具を使っているという。面白いのは、彼は絶対に人の道具に触れないということ、彼曰く、他人の道具を持った瞬間にその道具の感触が残ってしまうからだとか。私はそこまで敏感ではないし、根っからの新しいもの好き、好奇心も手伝って、自分が良いと思った物ならば、人が使っている物だろうが、たとえだめだと言われている物であろうが、いろいろと試したいと思う。けれど、決して何でも良いという訳ではない。
『弘法筆を選ばず』という格言がある。弘法はどんなにボロな筆を使おうが立派な揮毫が出来る言ったような意味であろうが、美しい字を揮毫できるならば、筆は選ぶべきだと思う。いいや、筆は選ばなければならない。専門家とは、それ以外の多くの人々がなし得ることの出来ない技術と知識、力を持っているのだから、それを発揮できるすべてを尽くしてこそプロフェッショナルだと思う。

補彩や細かな場所への接着剤の注入、塗布に使うために先の細い筆は修復家必須アイテム。
私はずっとWinsor&Newton社製のSeries7を愛用している。
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2010年4月 9日 (金)

お金をかけない保存管理

バブル経済真っ盛りの頃、日本全国で道路や空港、箱物と呼ばれる公共施設が山のようにつくられて、美術館や博物館もずいぶんと増えた。このおかげで、苦労して遠方まで足を運ぶことをしなくても、自分達の住む地域で、いつでも気軽に絵画を鑑賞したり、歴史資料に目を通すことがかなうようになった。しかしこの一方では、貴重な資料が全国に散逸し、その保存や管理の負担は大きくなっている。
すばらしい建物も出来て、あれやこれやと購入して陳列、展示はしてみたものの、ずっと長い間、展示したまま、収蔵したままという施設は全国に少なくはない。開設当初は全館24時間まわしていた空調も、来館者が減り、財源、運営資金も乏しくなれば、運転が制限され、いつか取り扱いに長けた専門家を雇うことも難しくなり、収蔵品はひたすら危機的状況に追いやられる、、、。私はこれまで、幾度となくそんな状況にある施設を目の当たりにしてきた。ただでさえ、芸術や文化事業にお金をかけない(かけたがらない)日本ではなおのこと。世界規模で経済不況の嵐が吹き荒れる中、全国に散逸した貴重な文化財を守るために、ローコストで簡便、かつ有効な保存、管理対策というようなことも、急いで考える必要があると思う。 また事業仕分けが始まるようだ。

2010年4月 5日 (月)

必要とされるアイディア

ちょっと前に、新潟の市美術館で四月下旬より開催予定の『奈良の古寺と仏像』展で、文化庁が国宝、重要文化財に指定している14点の展示を認めないと通知したという記事が目に留まった。同館では、2月の企画展で展示されていた物から30匹ものクモが発生。さらに、さかのぼって前年の七月にも展示作品にカビが発生して、すでに注意されていたことも、今回の物言いに影響しているようだ。クモの発生は展示物の消毒の不良であったというし、カビは空調を止めて湿度が上昇したためと、原因もわかっているようだから、きっと解決策は多々あろう。
私は開業修復家として、様々な施設から業務依頼を受けているが、昨今の経済不況は、全国の美術館や博物館施設にも大きな影響を及ぼしている。せっかく立派な施設を持っていても、いまや、空調装置を全館で、しかも24時間運転するなどとてもかなわないし、収蔵庫だけ空調装置を動かしている施設もある。美術品や歴史資料を管理する専門家を常勤で雇うことも困難な施設は少なくはないようだ。環境が整わない、人材もお金もない。そんな場所にこそ専門家の経験と知識を活かして、何かよいアイディアを生み出し、提供したいものだ。

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