掛軸はミルフィーユ?
掛軸や巻物(巻子【かんす】よもよぶ)は観賞する時には平に伸ばして広げ、しまう時にはくるくるとコンパクトに巻くことが出来、収納スペースも小さくて済むし移動にも便利。この装幀方法は、ずいぶんと昔、チベットの辺りで、布教活動を目的として沢山の教典を持ち運ぶために考案されたという説があり、西暦500年頃になって、仏教の伝来と共に掛軸装された仏画や巻子になった教典が日本にも運ばれて来る。
薄い絹織物や手漉きの紙に文字や絵を記す東洋の文字記録や絵画は、このままでは脆弱で、すぐに折れたり破けたりしてしまうので、利用するのも持ち運ぶのも難しい。そこで考えられたのが『裏打』という加工。裏打とは簡単に、糊を塗った紙を作品や資料の裏側に貼付けること。これによって脆弱な絹織物や紙に必要な強度を与えることが出来る。
書画を掛軸や巻物に仕立てる『表装(ひょうそう)』『表具(ひょうぐ)』『経師(きょうじ)』なととよばれる技術は、日本の手漉き和紙の特性を生かして、巻いたり広げたりを繰り返しできる様に、薄い紙、質の異なる紙を何層かにわたって裏打し、なお硬く強ばらぬ様に、しなやかな掛軸や巻物を仕立てる高度で洗練された装幀術。制作には作品と装幀に使う織物(裂地)それぞれを同じ様な厚さ、硬さ(しなやかさ)になる様に裏打し、さらに裏打した作品、裂地同士を接合の後、また何度かの裏打を行って仕立て上げる。裏打の回数は作品の大きさや質にもよるが、大きなものになると5〜6層の裏打をすることもある。出来上がってしまえば一見一枚のシートに見える掛軸や巻物。でも実は多層構造(ミルフィーユほどじゃないけれど)となっている。
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