安易な修理にご用心
近ごろでは、文具店や画材店にいくと様々な種類の接着剤が販売されている。首都圏で有名な東急ハンズや街にある大きなホームセンター、DIY店などにいけば、プロフェッショナルも使うようなものが簡単に手に入る。用途に合せて種類も様々で、その姿形も液状のモノからはじまって、ゼリー状、粘土のようなモノ、固形、テープ状と様々だ。店頭に並ぶパッケージは色とりどりで、新しい物好きの私などは、つい手にして試したくなる(仕事上必用なことでもあるので実際に多くを試している)。これらの接着剤料は、知識のない者でも、子供から大人まで安心して利用出来るように安全設計されていて(もちろん使い方を間違えなければ)、利用強度の高さに優れ、なお簡便性の高いモノが多くて魅力的だ。
けれど、こういったものを、とくに『大切』と思われる物には安易に利用しないで欲しい。間違ってもパッケージにうたわれた効能を鵜呑みにし、上辺だけで判断したり、DIYの趣味よろしく不用意な補修に利用するのも控えていただきたい。
かつて、その簡便さからか、版画やデッサン、水彩画など、紙製の作品を額装する際によくセロテープなどと呼ばれる透明の接着テープが利用され、今もなお、この接着テープの被害を受けた作品が工房に数多く運び込まれる。接着テープの利用によって生じる一番大きな問題は、経年と共にテープ(フィルム)上にあった接着剤が被着物にゆっくりと溶け出し、染み込んでゆくこと。さらに、時間を経るとこの接着剤が変色して、こうなった時は除去するこが極めて困難になる。
市販されている接着テープは、日常生活における用途に十分に答えてくれる物で、短い時間か、使い捨てを念頭に利用すれば全く問題はないだろう。それを良く理解して使う限り、安全で使い勝手も良い物が多い。しかし、貴重な美術品や資料に対して利用する修理材料としては、長期的な安定に欠ける物が多く、後の可逆性(時間が経っても安全に被着物を傷めずに除去出来ること)を保証するものはほとんどない。私達修復家の取り扱う物はとても貴重なだけに、修復に利用する材料や素材に求める要求も一般からくらべればかなり高く厳しい。昨今ではずいぶんと研究も進み、中にはかなり長期的に安定する接着剤、接着テープも増え、一方、以前から私達のような専門家しか使うことのなかった商品も店頭に並びはじめている。でも、やっぱり安易に利用することは常に控えたい。どんなに優れたものにもウイークポイントやデメリットはつきものだ。。強力!とか瞬間!であれば全てが良いワケではないのである。
大切なものが壊れたら、まずは専門家御相談を。
市販の接着テープで固定されていた版画作品の裏面。帯状、茶褐色に見えるのが接着テープの変質した痕。経年と不良な額材から発生するガスなどによってテープの接着剤が変質してしまった例。こうなると修復処置は結構大変だ。
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はじめまして
記事を読みまして、ご相談をお願いしたく書きました。
油絵の具の修復なのですが・・・・
写真を載せられればいいのですが・・・・
説明だけでも書いておきます
剥離の問題です
頼まれたのは、かなり薄く描かれている作品です。
下地のキャンバスが見えています。
剥離した部分は、反り返り、ぼろぼろとおち始めています。
今は、少ない被害で済んでいますが・・・・
修理と言われても、本職は描く方なので・・・・
調べてできるかどうか・・引き取ってみました
大きさは、F50号です
額は後づけで、木の枠をはめてあります。
大事なものなら、ガラスつきを勧めましたが、これ以上ひどくなるなら、そのままでいいと言われています。
これだけのヒントで分かられますか?
すみません・・・
よければ、何かしらのアドバイスをお願いします。
投稿: たえこ | 2010年2月 9日 (火) 15時05分
コメント、有り難うございます。
お送りいただいた情報からだけでも、絵層に深刻なダメージが見られる様です。
応急的な処置や、ガラスを付けても症状の改善は見込めず、それなりの処置が必要と思いますので、専門家に診てもらうことをお勧めします。
投稿: ニードルアイ | 2010年2月 9日 (火) 17時05分
お返事ありがとうございました
そうですか・・・
専門家にですね・・
たぶん、そうなれば、ここまでの話になると思うので、自分でやってみます
一部のテストを試みて、それから判断してみます
でなければ・・・絵がかわいそうなので。
素人が何ができるか分かりませんが、自分のこれまでの知識と、画材やさんに聴いてみます
艶消しの画面構成、その溶剤、絵の具の配分・・・でしょうか。
とにかく、やってみます
本当に、ありがとうございます
このことがあって、ここを知りましたが、時々
お邪魔させてください
よろしくお願いします
日本画は、好きです
自分の描くものとは違いますが、あの世界観は素晴らしいです。
投稿: たえこ | 2010年2月10日 (水) 15時59分