フォト
無料ブログはココログ

« 2009年3月 | トップページ | 2009年5月 »

2009年4月

2009年4月10日 (金)

修復家に必要な体力

私達修復家は、対峙する様々な文化財の成り立ちを学ぶために、また様々な製作術を学ぶ。絵画修復の専門家ならば必ず何度かは実際に絵を描き、漆工品ならば漆を扱う技術を学び、彫刻ならば鑿を振るう。文献による机上の学習ではなく、実際に自分の身体を使って経験をすることがとても大切だ。何かをつくる、(自分がつくったものならば解体することも出来る)という経験は、人がつくったものの成り立ちを学ぶことにもつながるが、ここで重要なことは、私達のこの手で実際に物に触れ、材料、素材の特質を肌で感じ、その感覚をしっかりと記憶すること。時にひたすら途方も無く長い作業を続け、細やかな手さばきを何度も繰り返して、身体の感覚を研ぎ澄ましていき、高い運動能力を得ることができるのだと思う。
現在は文化財のオリジナリティーを重要視して、最小限の修復処置を目指すことが修復家に求められているが、それでも、いわば、医療の最前線に立つ外科医のように、対峙する貴重な絵画、美術品や歴史資料にこの手で直接触れ、なんらかの処置を加、その命と未来を託される修復家には、机上で学んだ知識だけではなく、高度な手作業ができる体力を備えることも必要だ。

 

 

 

2009年4月 3日 (金)

アクティブな媒体

塵埃を払い、傷口を塞ぎ、いまにも剥がれ落ちそうな絵の具の破片をもとへ戻す。残るすべてを維持し、可能であれば、求められれば、本来の姿形、機能を回復させ、蘇生させる。さらに年月を耐え得る様に、知識と経験と、そこに裏付けされた技術を尽くす。私達修復家は、その創造者と同じか、それをはるかに超える長い時間、修復対象と向き合う。
創造者がそこに刻み、記した人生、情熱と希望、美学、哲学。そして、それを所有し、利用してきた人々がそこに見出し、投影した価値。積み重ねられた歴史。私達修復家は、いま、そこに読み取ることのできるすべての情報を未来に伝えることが使命。ある修復家は、この活動を『媒体』と表現した。私は、日々この使命に真摯に立ち向かう同朋の姿を見て、そして私自身も、なんと能動的な媒体かと思う。


Img_9749
写真は、作品の裏面から光を当て透過光線撮影したもの。中央に人為的に四角く切られた痕とそれを埋める為の補修紙が貼られ、補助的彩色が行われていた。おそらく、修復作業の効率を上げる為に傷んだ部分周辺を整理、裁断したものと推測するが、現在ではこのような『整理』は破壊と見なされ、一切行なわない。

« 2009年3月 | トップページ | 2009年5月 »