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2008年12月 2日 (火)

カマンベール・チーズの様な油彩画

油絵の具は、数ある絵の具の中でも一際長く使われて来た歴史を持っている。その起原は14〜15世紀にさかのぼり、オランダのファン・エイク兄弟が油彩画技法の確立に大きな功績をもたらしたと伝えられている。油絵の具の主な成分は、色のもとである土や鉱石などを砕き、微粉末にした顔料に加えて、絵の具自体を固め、さらに描いたキャンバスや板に(専門家は基底材・支持体などと呼ぶ)くっ付けるための油の二つである。この油は、植物から採取されるものが多く、代表的なものとしてあまに油(Linseed oil)、けし油(Popy oil)、他にくるみ油(nuts oil)、私達がよく食用にするべにばな油(safflower oil)などがある。日本人の油彩画の創始者として名高い、かの高橋由一などは、荏胡麻(えごま)から採った油を使った。
これらの油は、乾性油と呼ばれ、長い間空気に触れるとゆっくりと固まってゆく特性がある。油絵の具の色のもとは、水彩絵の具や日本画で利用される岩絵の具とほとんど同じなのだが、後者がいずれも含まれた水分の蒸発、乾燥をもって固まるのに対して、油絵の具は、含まれる乾性油が大気中の酸素を取り込んで固化する。この乾性油が固化する現象は、私達の生活の中でもよく目にすることができて、一番分かりやすいのがキッチンのレンジ回り、換気扇あたり。年末の大掃除で換気扇を掃除したことがある人ならば、誰でも知ってるあの頑固な油汚れ!この種の油も、ボトルや缶から出した直後は滑らかで流動性に富むが、空気に触れてしばらく経つと粘り気が出て、一年も立つと固まって容易に取り除くことが出来なくなる。この固化現象を酸化重合といって、簡単にいうと(興味のある方は専門書を読んで下さい)、油の分子が酸素を橋渡しにしっかりと結合してゆくもので、油絵の具の場合は、結果としてその中に顔料をとじ込める。
油絵の具が科学的に完全固化するのには、およそ30年程度必要とされる。いったん固化すれば耐候性に優れ、製作後、有に数百年の歳月を越える『堅牢』な絵画をつくることも出来るいっぽうで、描き方次第では容易に崩壊する。昨年の春に、ある機関より修復を依頼された絵画は、制作後40年近く経過して、表面は固化しているものの、絵の具が厚く塗られた箇所の内部は柔らかだった。油彩画は、塗った絵の具が乾かぬうちに急いで描き重ねてゆく様なことをすると、空気に触れる画面だけが乾いて、乾いた絵の具膜によって外気から遮断される。表面は固めだけど、内部はいつまでもユルユルのカマンベールチーズの様になっていることもあるので注意が必要。
Yuga001 ◎分厚く塗られた油彩絵画は、制作後しばらくして内部の絵の具が溶け出すなんてこともある!?

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