抜け殻を観賞する
現代の博物館や美術館では、かつて宗教信仰の対象であった仏像や、教義を記す教典、仏教の世界観を表す絵画などが並べられ、仏教美術として観賞の対象となっている。ここでは、展示されている仏像を拝む人は稀だし、読経をあげる人となると皆無に等しいだろう。宗教に関心のない者、信仰のない者にすれば、それは古典的な彫刻であり、文字記録、絵画であるに過ぎない。
香の臭い漂う荘厳な寺院の中から、空調の完備されたハイブリットなガラスケースの中に納められた瞬間に、宗教、精神世界の拠り所から、歴史、美術品へと変貌し、その新たな価値が付帯され、さらに多くの人によって、また新たな価値イメージが投影される様になる。
仏像の修復を行う場合は、いったん魂を抜く儀式をしてから『物』にして、修理後にもう一度魂を入れ直してもとの仏像に戻す。博物館に展示されている仏像や仏教美術品というのは、ただの抜け殻なのだろうか。
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