東洋絵画の着せ替え
油彩画に代表される西洋絵画は、額に納めて鑑賞、取扱いされることが多い。こういった作品は、作品を固定してあるネジや釘を取り除くことで、一般の人でも比較的容易に作品と額を分離できる。たとえば、宗教絵画のイコンのように作品と周囲の装飾、装幀部分を一緒に、一体化して製作する様な例外もあるが、構造的に額と作品が独立した" 別モノ"として取り扱い出来るから、極端に大きい作品でもない限り、誰もが、いつでも自由に、お部屋の模様替えよろしく、作品と額装の着せ替えをすることが可能だ。
これに対して、伝統的様式の東洋絵画はとても薄い紙や絹織物に描かれる為、それだけでは強度が保てず、キャンバスの様に直接木枠に固定することも難しい。だから、強度と安定性(裏が透けないようにする=描画イメージが鮮明になる意味もある)を確保するため、別の和紙に糊を塗り、これを作品の裏側に貼り付け、裏打(うらうち)と呼ばれる補強をする。東洋絵画の装幀様式の代表とも言えるだろう掛軸装(かけじくそう)は、この裏打ちされた作品をベースに、その周囲にやはり同じように裏打ちした金襴や緞子織物を直接接着して取り付け、さらに全体を裏打ちしたものだ。つまり、掛軸は構造的に作品と装幀部分がしっかりと接着固定され、裏打紙によって一体化されている。だから、誰もが容易に作品と装幀を分離できないし、装幀の『着せ替え』もできない。もし、それを望む場合は、しかるべき専門家の手によって、先述と逆の工程を順にたどって一旦掛軸装を解体し、あらためて掛軸装に仕立て直す必要があり、結構な手間と時間が必要になる。
一見、不便にさえ見えるこの装幀様式ではあるが、薄くてしなやかな料紙や料絹の特徴を生かして、たとえ大きな作品であっても、収納時にはクルクルと小さく巻きあげることができ、小スペースでの管理を可能にする。もともと、この掛軸装や巻物などといった装幀様式は、膨大な文字を記した『経』などの情報を効率よく搬送する為の方法として考えられたという説もあるようだ。
◎掛軸装された作品の解体作業。古い裏打紙を少しずつ取り除いてゆく。
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