紙を蝕むインク
万年筆などに使うインクは、染料が使われることが多く、耐候性が低く、水分に敏感で滲みやすい。一方、旧来から重要な公文書の作成などに使われてきたブルーブラックインクは、鉄イオンが含まれていて、筆記後、この鉄分が酸化することによって生じる黒い沈殿物が紙に定着して滲まなくなる。ブルーブラックと呼ばれるのは、青いインクと黒いインクが混ざっているからではなく、書いた当初は青く、酸化が進むごとによって黒くなるからのようだ。
しかしこのインク、良いことばかりではなくて、強い酸性を示すために金属さえ犯す。万年筆のペン先が金製になったのも、耐薬性が強いからで、現代になって、このインクが筆記した文字も、記した用紙までをも破壊することがわかりはじめ、問題となっている。
現在、インクの酸化を抑制する抗酸化処置が研究、一部で実施されているが、資料を水に濡らさなければならないこなど問題も多く、最近のニュースでは、海外の研究機関でガスによる非水性処置が開発されたとも聞くが、未だに事例、報告は少なく、研究、開発途上の保存修復処置。
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» [handmadeink]古典ブルーブラック用原液に少し澱が発生していた。 [趣味と物欲]
3月6日頃に調製した古典ブルーブラック用原液を500mlのガラス瓶に入れて保存しているのだが、瓶の底に澱らしきものが少しだけ発生していた。現在、調製から40日というところ、もう少し澱なしで保たせたかったが、こんなものだろうか。 市販のインクではどうかと検索してみた... [続きを読む]
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